バルミューダのトースター|食パンが焼きたてパンのような味と食感に
1. BALMUDAとは
2010年に『GreenFan』という扇風機を発売して、一躍その名を世に知らしめた
新興の家電メーカーBALMUDA(バルミューダ)。
GreenFanの特徴は、何といっても音が静かで風が気持ちいいこと。
まるで本物のそよ風に吹かれているかのような感覚を味わえる。
これは、羽の形状を工夫し、心地良い風を徹底的に追求したことによる。
たしかに、今まで見たことがない、非常に凝った独特の羽なのである。
そして、何よりも驚いたのが3万円代という一般的な扇風機の10倍近い価格だ。
いくら高機能でもそんな高価格では売れないのでは?といった疑問は、当初、専門家からも聞かれた。
しかし、そんな声をよそに、GreenFanは大ヒット商品となり、市場に「高級扇風機」という新ジャンルを確立してしまった。
高価格にもかかわらず、GreenFanが消費者に受け入れられた理由は、
・誰も着目して来なかった扇風機本来の機能である「風」へのこだわり
・アップル製品を思わせる洗練されたデザイン
・国内生産ならではの製品のクオリティの高さ
などが挙げられる。
ひと夏使って24円という省エネぶりもアピールポイントだが、購入者にとっては、どちらかというとオマケのようなものだったかもしれない。
2. トースターを開発
そんなバルミューダが最近トースターをリリースして、再び注目を集めている。
その名も『The Toaster』(ザ・トースター)。
GreenFanで培った技術を生かして、空気清浄機、加湿器などの空調家電を中心にラインナップを拡充してきたバルミューダが、いよいよキッチン家電に進出というわけだ。
価格は22,900円(税抜)とGreenFanと同様、従来の他社製品と比較すると桁違いに高価格だが、そこはバルミューダ。 ただ高いだけの製品ではない。
従来のトースターにはない機能とクオリティを備え、ユーザーが高い満足感を得ることができる製品に仕上がっている。
3. バルミューダならではのこだわり
従来のトースターは、一定の出力でヒーターが庫内を温め、タイマーがゼロになると同時にヒーターも切れる。 ただそれだけの仕組みだった。
少し高価なトースターになると、熱源に遠赤外線を使ったり、温度調節が細かく設定できるなどの機能が付くものの、決められた時間と一定の温度で庫内を温めるという根本的な機能は変わらない。
一方、The Toasterは、従来のトースターとは一線を画する2つの機能を搭載している。
1つは、スチームを使っていること、もう1つは、高性能マイコンの搭載によって繊細な温度制御を行うことである。
まずはスチームの機能と効果から見てみよう。
トースターにスチームを付けるという発想は、バルミューダの社員たちが公園でバーベキューをしていた時に偶然発見したものだという。
トースターの開発中、実験と検証を繰り返す中で、バーベキューの時に食べたトーストが非常においしかったことを思い出す。 実はその時、雨が降っていたのだ。 つまり、天然のスチームである。
そこで、水分が味や食感に及ぼす影響が大きいのでは?という仮説が立てられ、スチームを取り入れたトースターの開発が進められることになった。
その後、味が評判の近所のパン屋で、かまどでのパン焼きの工程を見学した際、電気とスチームを使っていることを知り、仮説が正しかったことを確信したという。
次に、高性能マイコンによる温度制御について。
このマイコンは、庫内の温度をなんと1秒ごとにセンシングして、ヒーターの出力を細かく制御している。
夏と冬とでは外気温は30度近くも違うので、当然、外気温は庫内の温度にも影響を及ぼす。
また、パンはずっと同じ温度で焼けばいいというものではないし、パンの種類によっても、おいしく焼くための焼き方は違う。
実際にトースト中の庫内を見ていると、上下にあるヒーターの色が微妙に変化しているのが分かる。
このスチームとマイコンによる温度制御によって、
・最初にパンの表面にさっくりとした焼けた層を作る
・中の水分を閉じ込める
・内部をしっかり温める
・最後に焼き上げ
という工程を経て、表面は香ばしく焼きあがっていながら中は水分をたっぷり含んだ、コントラストに富んだ食感を実現しているのだ。
また、クロワッサンやバゲット、ロールパンなどは、焦がさずに中まで熱々に温めることができ、窯から出したばかりの焼きたての味を再現している。
パン好きにとっては、毎日の朝食が楽しみになること間違いなしである。
4. 体験という価値を売る企業
もちろん、バルミューダの製品だけあって、機能だけではなくデザインや音、質感にも徹底的にこだわっている。
実際、どんなオシャレなキッチンに置いてもそこに溶け込んでしまうような、非常に洗練された佇まいである。
The Toasterは、大きなプロモーションなどはしていないようだが、百貨店などからの注文が引けを切らないという。
生産ラインはほぼフル稼働状態で、欠品して予約注文になることもあるそうだ。
高くても良いモノは、たとえトースターであっても売れるのだ。
バルミューダの製品を見ていると、完成・成熟したと思っていた家電にも、まだまだ進化の余地があることが分かる。
そして、最近のバルミューダは単に高機能な製品を作って売るのではなく、ユーザーに『体験』という価値を提供することを強く意識しているという。
なるほど、なんとなく五感を刺激してくる製品群だと思っていたが、気のせいではなく意図的なものだったのか…
モノではなく体験を売る。
これは家電に限らず、今後あらゆる商品・サービスで他社と差別化するための重要なキーワードになってくるはずだ。